チベット仏教には、前述したサンガのような功徳の土壌として、他にヨギとヨギニがいます。仏教徒のヨギとヨギニ(チベット語で「ンガッパ」として知られています。)は、主にヒマラヤ山脈地方及びチベットに見られます。(最近はヨーロッパやアメリカでも見つけることができるでしょう。)その主な理由としては、チベットに於ける殆どの仏教の宗派は、ンガッパ・ラマ達によって築かれたという事実があります。それはインドのマハーシッダ(大成就者)達でした。これらのンガッパ・ラマの殆どには家族がいます。ンガッパ・ラマには、僧侶や尼僧の様に、守らなくてはならない厳しい戒律があります。このようにして、彼らは自らの外に表れる行動と内なる動機に気を付けるよう、常により注意深くなります。多くのンガッパ・ラマは高い悟りに到達します。彼らは、我々が功徳の種を撒くための優れた土壌なのです。
この世に現れた最も偉大なヨギは、ミラレパです。ミラレパはチベット人で、一生涯の内に完全な悟りを開きました。その伝記は時代を超えて多くの仏教徒に霊感を与えてきました。多くの人々が、特にヨーロッパやアメリカで、ヨギ・ミラレパの伝記を読んだ後に仏教徒になりました。彼らはミラレパにインスピレーションを受けました。私もミラレパにインスピレーションを与えられました。
チベットの仏教は、あるンガッパ・ラマによって築かれて栄えました。そのラマの名はパドマ・サンバヴァといい、「グルリンポチェ」(尊いグル)として知られています。グルリンポチェはチベットにおける仏教の創始者です。(チベット仏教の創始者はダライ・ラマだと誤解している日本人に沢山会いましたが)グルリンポチェはインドのマハーシッダ(高度に成就した修行者)で、チベットのティソン・デツェン王に招かれて、8世紀頃に仏教をインドからチベットへ伝えました。グルリンポチェの神秘的な力を借りて、この王が建てた最初の仏教寺院であるサムイェ寺は、チベットで現在も荘厳に聳え立っています。サムイェ寺は、チベットにおいて最も聖なる地の一つと考えられています。
ティソン・デツェン王はその後、グルリンポチェの弟子になりました。グルリンポチェの一番弟子はダキニ・イェシェ・ツォギャルです。彼女はグルリンポチェの配偶者となり、チベットにおける、女性として最初の系譜継承者となりました。ダキニ・イェシェ・ツォギャルはグルリンポチェによる埋蔵経に、部分的に関与しています。これらの埋蔵経は、ンガッパ・ラマであるテルトン(埋蔵経発掘者)によって、時おり発見されます。これら埋蔵経により、チベット仏教は今日まで独特の存在となっています。グルリンポチェはニンマ派を創始しました。これはチベット仏教において最も古い系譜です。トゥルク(リンポチェとして知られる転生ラマ)を含む、ニンマ派の修行者の多くは、グルリンポチェに倣って配偶者を持っています。
グルリンポチェは、ンガッパ・ラマとして、全てのチベット人やチベット仏教行者に大変崇拝されています。彼らはグルリンポチェを第二の仏陀と見做しています。仏教史の中の84人のマハーシッダもまた、ンガッパ・ラマです。その内の4人は女性のンガッパ、或いはヨギニです。彼らは、因習にとらわれない密教を修行しました。マハーシッダとは、マハー(偉大な)ボディサットヴァ(菩薩)であり、涅槃に至ることができるにもかかわらず、その慈悲心から他者を利益するために、六道輪廻の世界に戻って来る者のことです。これら84人のマハーシッダ達の家柄や出身は多様で、その中には、王や大臣、聖職者やヨギ、治療士、詩人、音楽家、地主、農民、娼婦などがいます。これらのマハーシッダ達は神通力(シッディ)を持っています。シッダとしての彼らがダルマの修行において最も重きを置くのは、最高位の精神訓練を通して得られる、神聖な修行の直接的経験です。
チベット仏教ニンマ派の他に、カギュ派およびサキャ派にもンガッパ・ラマが見られます。9世紀に生きたインドの聖者、ヨギ・ヴィルーパは、最も人気のあるマハーシッダの内の一人です。彼はチベット仏教サキャ派の創立にインスピレーションを与えました。現在のサキャ派の宗主、サキャ・テンジン法王には妻子があります。法王の子息はサキャ派の宗祖を継ぐことになります。このサキャ派の伝統では、宗祖の座は父から息子へと受け継がれます。
カルマパ法王(公式サイト:http://www.kagyuoffice.org/ )はカギュ派の宗主です。現在のカギュ派の宗主は、第十七世カルマパ法王、ウギェン・ティンレイ・ドルジェです。チベット仏教に特有のトゥルク制度(転生ラマ制度)は、第一世カルマパ、ドゥスム・キェンパによって創始されました。
カギュ派は、インドの聖人である大成就者ティローパによって創立されました。チベット人のンガッパ・ラマ、マルパはインドに赴き、マハーシッダ・ティローパの弟子であるマハーシッダ・ナローパからカギュ派仏教の教えを伝授され、チベットに伝えました。マルパはサンスクリットで書かれた教えをチベット語に翻訳しました。亡くなるとき、マルパは妻のダクメマと一緒に空に浮かび上がって消えました。ティローパもナローパも同じくンガッパ・ラマでした。
第十五世カルマパは僧侶でしたが、配偶者を娶ってンガッパ・ラマとなりました。多くのチベット人はこれを良く思いませんでした。しかし、十五世カルマパは亡くなる前に、丁度過去の全てのカルマパがやったように、自分の来世についての予言を書き残しました。その手紙はダキニ言語で書かれており、カルマパはそれを明確な指示のもとに側近に託しました。手紙はかなり後に第十一世タイ・シトゥ・リンポチェ猊下に手渡されました。その内容が翻訳されると、そこで十五世カルマパが予言した自分の転生者に関する記述は、その時点ですでに第十一世タイ・シトゥ・リンポチェ猊下が見つけて即位させていた第十六世カルマパと完全に一致しました。(タイ・シトゥ・リンポチェの系譜についてさらに詳しく知りたい人はこのリンクをクリック:http://www.palpung.org/english/taisitupa/brief_brief.htm)
ケンポ・ツトゥリム・リンポチェ師は至高の成就を得た師であり、第十七世カルマパの教師でもあります。このリンポチェは偉大なるンガッパ・ラマです。チベットにいた頃はヨギ・ミラレパのような生活を送っていました。中央~東チベット中を放浪し、洞窟に篭って隠棲修行を行っていました。(ケンポ・ツトゥリム・リンポチェ師についてさらに詳しく知りたい人は、こちらのリンクをクリック:www.ktgrinpoche.org/biography.html )
ンガッパ・ラマとしてチベット仏教の修行をするのは、容易なことではありません。ンガッパとしてダルマの修行を成功させるためには、たいへん多くの功徳が必要です。導師として、途切れの無い系譜を持つ信頼できるラマを持つことの他に、俗世の放棄、慈悲心、菩提心、誠実な動機および、根本ラマに対する揺るぎない信心と敬信が求められます。我々は高度の精神的規律と決心、寛容、根気、忍耐そして勤勉さを持たなければなりません。資格ある導師なしに修行するのは危険です。私は、導師なしで、または資格のある導師なしで修行したために、正気を失った人々を多く見てきました。その中には、仏陀はブッダガヤの菩提樹の下で悟りを開いたが、導師を持たなかったなどと言う人もいました!従って、彼らもまた同じようにできるのだ、と言うわけです。こう言う人々は間違っています。彼らは全く無知なのです。仏陀はこのように言いました。「この恵まれたイオンの間に、千の仏陀が現れる。その全てがそれぞれ、仏陀となるまで導く師を持つ。」従って、我々が衆生を利益するために仏陀となるには、導いてくれる真のラマ(導師)が必要なのです。
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